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ワークスペースの設計。おこもり、アーチ壁の奥に。

  • 執筆者の写真: t-ogino
    t-ogino
  • 1月5日
  • 読了時間: 9分
アーチ壁の奥ののリモートスペース


勉強や仕事をするのには、オープンすぎる場所よりも、ちょっと隠れた場所の方が集中するんじゃないか迷われた施主。アーチ壁を潜った先に机をつくりつけました。隠れてはいるんですが、勉強している様子がリビングやキッチンからちらっと見え、な~んとなく様子を感じられる配置になりました。



アーチ壁の奥のリモートスペース


造作でリモートワークスペースをつくりました。


リモートカウンター


リモートワーク作業をするカウンター。リビングの壁に本棚と一緒に製作。良く使っているそう。



アーチの向こうにある、静かな集中の場所


家づくりの設計過程で、施主が最後まで悩んだのが「勉強や仕事をする場所を、どこに設けるか」ということでした。リビングの一角にデスクを置けば、家族の気配を感じながら作業ができます。しかし、あまりにオープンすぎると、集中が途切れてしまうかもしれません。かといって、個室に閉じこもってしまうと、家族とのつながりが薄れてしまうような気もする。

そんな葛藤の中で生まれたのが、「ちょっと隠れた場所」という絶妙な距離感のワークスペースでした。


アーチ壁の奥に、ひっそりと佇む造作デスク

リビングやキッチンから見える位置にありながら、アーチ壁を一枚隔てることで、空間に緩やかな境界が生まれます。アーチをくぐると、そこには造作の木製デスクと棚がしつらえられた、静かな作業スペースが広がっています。壁に沿って設けられた棚には、仕事道具や参考書、趣味の本が並び、必要なものがすぐ手に取れるように配置されています。


天井には控えめなダウンライトが造作棚の下には棚下灯が設けられており、昼夜問わず落ち着いた明るさを保ってくれます。木の質感が空間全体にやさしい温もりを与え、長時間座っていても心が疲れにくいです。デスクの下や上の棚にはオープン収納があり、書類や文房具をすっきりと収めることができます。使い手の動線や癖を丁寧に読み取った造作ならではの設計です。


「隠れているけれど、つながっている」安心感

このスペースの最大の特徴は、「隠れているけれど、完全には閉じていない」という点にあります。アーチ壁が視線をやわらかく遮りながらも、リビングやキッチンからちらっと様子が見えます。家族が食事をしているとき、子どもが遊んでいるとき、ふとした瞬間に「今、パパは仕事してるんだな」「お兄ちゃん、勉強がんばってるな」と感じられます。そんな“な〜んとなく”の気配が、家族の距離を保ちながら、心のつながりを育んでくれます。


この空間は「見守られているような場所」と表現できます。完全な個室ではないからこそ、孤独になりすぎず、でも集中は保てます。家族の生活音が遠くに聞こえるくらいの距離感が、ちょうどいいのです。リモートワークの会議中でも、背景に生活感が映りすぎることはなく、落ち着いた印象を保てるのも嬉しいポイントです。


子どもたちの成長とともに変化する場所

この造作スペースは、単なる「仕事場」や「勉強机」ではありません。家族のライフステージに応じて、柔軟に役割を変えていく場所でもあります。

たとえば、小学生の子どもが宿題をする場所として使ってる場所が、数年後には受験勉強の拠点になるかもしれません。あるいは、親御さんがリモート会議をするための場所として使ったり、趣味の読書や手仕事に没頭するための隠れ家になることもあります。家族の誰かが「ちょっと集中したい」と思ったときに、自然と足が向かう場所——そんな空間が、家の中にあることの豊かさは、暮らしの中でじわじわと実感されていきます。


素材と造作がもたらす、空間のやさしさ

このスペースの魅力は、設計の工夫だけではありません。使われている素材にも、施主様のこだわりが詰まっています。デスクや棚には、温かみのある木材が使われており、触れたときの感触がやさしいです。無垢材の表情は、時間とともに少しずつ変化し、使い込むほどに味わいが増していきます。


また、棚の高さや奥行き、デスクの幅なども、使い手の体格や使い方に合わせて細かく調整されています。既製品では得られない「ちょうどいい」が、造作ならではの魅力です。椅子に座ったときの視線の抜け方、手を伸ばしたときの距離感——そうした細部の積み重ねが、空間全体の心地よさを生み出しています。


家の中に「居場所」があるということ

この造作スペースは、単なる機能的な場所ではなく、「居場所」としての意味を持っています。家族それぞれが、自分の時間を過ごすための場所を持つこと。それは、家の中で自分らしくいられるための大切な要素です。


リビングでくつろぐ時間も、キッチンで料理する時間も、もちろん大切です。でも、ふと「一人になりたい」「集中したい」と思ったときに、すっと移動できる場所があること。その安心感が、暮らしの質をぐっと高めてくれます。

このスペースは、そんな「ちょっと一人になれる場所」として、家族の暮らしに寄り添っています。アーチの向こうにある静かな空間は、家族の気配を感じながら、自分の世界に没頭できる——そんな絶妙なバランスを叶えてくれるのです。



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リモートワークスペース設計のポイント


現代の働き方が大きく変化する中で、リモートワークは一時的な対応策から恒常的なライフスタイルへと移行しつつあります。自宅での仕事環境は、単なる「作業場所」ではなく、集中力・創造性・心の安定を支える「生活の一部」として捉える必要があります。リモートワークスペースの設計において注意すべきポイントを、空間構成・素材選び・心理的影響・家族との関係性など多角的な視点から解説します。


1. 空間のゾーニングと役割の明確化

まず最初に考えるべきは、「仕事」と「生活」の境界線をどう引くかという点です。自宅という空間の中で、仕事に集中するための領域を確保することは、精神的な切り替えを促す上で非常に重要です。


• 専用スペースの確保:可能であれば、仕事専用の部屋やコーナーを設けることが理想です。扉で仕切れる空間であれば、視覚的・聴覚的なノイズを遮断でき、集中力が高まります。


• 視線のコントロール:家族の動線や生活感が視界に入ると、無意識に気が散る原因になります。窓の向きや家具の配置を工夫し、仕事に集中できる視線の方向を設計します。


• 時間帯による使い分け:スペースが限られる場合は、時間帯によって空間の使い方を切り替える「時間的ゾーニング」も有効です。例えば、朝はダイニングテーブルを仕事用に、夜は家族団らんの場に戻すなど。


2. 光と音の環境設計

人間の集中力や気分は、光と音の環境に大きく左右されます。特に自宅では、オフィスのような均質な照明や防音設備が整っていないため、意識的な設計が求められます。


• 自然光の取り入れ方:窓際のスペースは、自然光を取り入れやすく、気分を安定させる効果があります。ただし、直射日光が強すぎると画面が見づらくなるため、レースカーテンやブラインドで調整します。


• 人工照明の工夫:タスクライト(デスクライト)と間接照明を組み合わせることで、目の疲れを軽減し、空間に奥行きと落ち着きを与えられます。色温度は昼白色~温白色(3500K~5000K前後)が集中に適しています。


• 音環境の整備:静かな環境が理想ですが、完全な防音は難しい場合もあります。吸音性のある素材(ラグ、カーテン、木材)を使うことで、反響音を抑え、落ち着いた空間を作ることができます。必要に応じてノイズキャンセリングイヤホンの導入も検討しましょう。


3. 家具と収納の選び方

家具は単なる道具ではなく、身体との関係性を通じて空間の質を左右する重要な要素です。特に長時間座ることになる椅子やデスクは、身体的な負担を軽減するために慎重に選ぶ必要があります。


• 椅子の選定:人間工学に基づいた椅子は、腰痛や肩こりの予防に効果的です。座面の高さ調整、背もたれの角度、アームレストの有無など、自分の身体に合ったものを選びましょう。


• デスクの高さと奥行き:ノートPCだけでなく、資料やメモを広げるスペースが必要な場合は、奥行き60cm以上のデスクが理想です。高さは一般的に70cm前後ですが、身長に応じて調整可能な昇降式デスクもおすすめです。


• 収納の工夫:仕事道具が生活空間に散らばると、心理的なストレスになります。引き出し付きのデスクや、壁面収納、キャスター付きワゴンなどを活用し、使いやすく美しい収納を設計しましょう。


4. 素材と質感の選択

空間の印象は、素材の選び方によって大きく変わります。特にリモートワークスペースでは、長時間過ごす場所だからこそ、触れる素材や視覚的な質感が心に与える影響を考慮することが重要です。


• 木材の温もり:オークやタモなどの無垢材は、視覚的にも触覚的にも温かみがあり、安心感を与えてくれます。デスクや棚に自然素材を取り入れることで、空間に柔らかさと落ち着きをもたらします。


•左官仕上げや布素材:壁面に珪藻土や漆喰を使うことで、調湿効果と柔らかな光の反射が得られます。また、ファブリック素材の椅子やカーテンは、音の反響を抑えつつ、空間に優しさを加えます。


• 冷たい素材とのバランス:金属やガラスなどの硬質な素材は、シャープな印象を与えますが、過度に使うと冷たい印象になりがちです。木や布とのバランスを意識することで、調和の取れた空間になります。


5. 心理的な切り替えと儀式性

リモートワークでは、通勤という「物理的な移動」がなくなるため、仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちです。そこで重要になるのが、「心理的な切り替え」を促す仕掛けです。


• 朝のルーティン:仕事を始める前に、コーヒーを淹れる、観葉植物に水をやる、窓を開けて空気を入れ替えるなど、小さな儀式を設けることで、脳が「仕事モード」に切り替わります。


• 空間の香りや音:アロマディフューザーやお気に入りの音楽を使って、空間に「仕事の香り」や「集中の音」を与えることで、感覚的なスイッチが入ります。


• 終業の儀式:仕事が終わったら、デスクを片付ける、照明を変える、部屋着に着替えるなど、「終わりの合図」を設けることで、オンとオフの切り替えがスムーズになります。


6. 家族との共存と配慮

リモートワークは、家族との距離が近くなる一方で、互いの生活リズムやプライバシーに配慮する必要があります。特に子どもがいる家庭では、仕事中の静けさと、子どもの自由な動きのバランスを取る工夫が求められます。


• 子どもとの約束:仕事中は話しかけない時間帯を決める、終わったら一緒に遊ぶ時間を設けるなど、子どもとの信頼関係を築くことが大切です。


• 視覚的なサイン:ドアに「仕事中」の札をかける、デスクにランプを点けるなど、視覚的に「今は集中している」ことを伝える工夫も有効です。


• 共有スペースの工夫:リビングやダイニングを一時的な仕事場にする場合は、家族が快適に過ごせるよう、片付けや音量に配慮する必要があります。


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