パースと模型を駆使してリノベーション設計する手法とは?ジャパンディな木造リノベーション
- t-ogino
- 5月1日
- 読了時間: 10分

京都にお住まいの施主が、東京に移転するにあたって、中古住宅を購入、リノベーションのご依頼でした。住宅購入前に施主と一緒に既存住宅の内見をし、良いところ、懸念点などをアドバイスさせて貰い購入、設計をしています。
つくりはしっかりしている既存住宅ですが、ちょっと無個性。
一般的なマンションの様な表層的な家では無く、素材感のしっかりした家にしたい。リモートワークのスペースが欲しい。自転車を家に入れたい。京都で見られる様な箱階段が好き。オープンなキッチンが好き。明るい家が良い。小屋裏収納をどう使うのか?ダウンライトなど輝度の高い照明器具を使わない照明計画をしてほしい。そんなご要望を形にする為の、設計をあれこれ考えています。

iPadでスケッチも慣れてきた。でも相変わらず模型をつくっています。模型は施主が空間は合いするのに意外とわかりやすかったりしますね。ま、模型でも、パースでも良いんだけど、施主が把握するには絵を沢山描かないとなぁと。

そして、本格的な和室の設計にも、取り組んでいます。
現代的な使い勝手と伝統的な質感の和室を目指して。
リノベーションでの模型とパースの違い
模型とパースは「似ているようで、設計の中で担っている役割がかなり違う道具」だと思っています。どちらも完成イメージを考えるためのものではあるんですが、使っている頭の部分が少し違う、という感覚があります。
まず模型についてですが、リノベーションの場合、模型は「既存の建物をどう読み解くか」という作業にすごく効いてきます。新築と違って、リノベは最初から条件がぎっしり詰まっていますよね。残す壁、触れない柱、微妙な屋根勾配、図面では読み切れない既存のクセ。そういうものを前にすると、平面図や断面図だけで考えていると、どうしても頭の中の立体が少しずつズレていくことがあります。
そこで模型があると、いわば「建物を手でつかめる」状態になります。今回の写真のように屋根を外して骨組みが見える模型だと、屋根の勾配の感じや、梁の高さ、天井を抜いたときの余白の取り方が、理屈ではなく感覚として分かってきます。たとえば「ここにロフトを入れたい」と思ったときに、図面上では成立しているように見えても、模型で見てみると意外と圧迫感が出たり、逆に「もう少し攻めても大丈夫そうだな」と感じたりする。その微妙な判断が、かなり正確になります。
リノベでは特に、「壊しすぎない」「でも窮屈にもならない」というバランスが重要になりますが、その調整をしているときの思考は、かなり身体的というか、感覚寄りです。模型はその感覚を裏切らないので、「この空間、ちゃんと成立しているな」という安心感を与えてくれます。設計者側の検証道具としての意味が、かなり大きいと感じています。
一方でパースは、また少し違う働きをします。パースは「そこに立ったときにどう感じるか」を先取りするための道具です。今回のスケッチのように、梁が見えていて、天井が抜けていて、キッチンの上に光が回っている様子が描かれていると、単に寸法や形ではなく、「空間の雰囲気」が一気に立ち上がってきます。
リノベーションの打合せでは、施主さんが「この家がどう変わるのか」を理解することが、とても重要ですよね。ただ、図面や模型だけだと、「分かる人には分かるけど、分からない人には分かりにくい」という壁がどうしてもあります。そこでパースがあると、「ああ、こういう感じになるんだ」という実感が生まれやすい。特に、既存の梁を見せるかどうか、天井を抜いたときにどれくらい開放感が出るか、木の質感がどれくらい空間の印象を左右するか、といった部分は、パースがあるかどうかで理解度がかなり変わります。
また、設計者自身にとっても、パースは単なる説明ツールではなくて、「この空間、本当に気持ちいいか?」を自問する装置でもあります。図面や模型で成立していても、パースに起こしてみると「思ったより重たいな」と感じたり、「この壁、いらないかもしれないな」と気づいたりすることがある。つまり、パースは感覚の検証装置でもあるんですね。模型が「形の成立」を確かめるものだとすると、パースは「体験の質」を確かめるもの、という感覚に近いです。
実際の設計プロセスの中では、この二つは順番に使うというより、行ったり来たりしながら使われることが多いと思います。ある程度プランが固まってきたら模型をつくって、空間の高さ関係や抜けの方向を確認する。そこで「この吹き抜け、もう少し広げたい」と思ったら図面を直し、また模型を触る。形が落ち着いてきたらパースを描いて、「この梁が見える感じ、気持ちいいな」とか、「ここは少し暗くなりそうだから窓を追加しよう」とか、感覚的な微調整をしていく。その繰り返しの中で、空間の精度が少しずつ上がっていく感じです。
リノベーションの場合、特に印象的なのは、「模型が設計者を守り、パースが施主を後押しする」という関係だと思っています。模型は設計のミスや思い込みを減らしてくれるし、パースは施主さんが決断するときの背中を押してくれる。どちらか一方だけでも設計は進みますが、両方があると、設計の説得力がぐっと増していきます。
今回見せてもらった模型とスケッチの関係も、まさにその典型だと思います。模型からは屋根の形や空間の骨格がしっかり読み取れるし、パースからは梁の表情やキッチン周りの居心地が伝わってくる。この二つが揃っていると、「この家がどう変わるのか」が、理屈と感覚の両方で理解できるようになります。リノベーション設計においては、その「両方が納得できている状態」をつくること自体が、かなり大事な仕事の一部なんだと思います。

つくり込んだ模型とは?
木の梁や家具までつくり込んだ模型の良さって、正直に言うと「そこまでやる意味あるの?」と思われがちな部分でもあるんですが、実際のリノベーション設計をやっていると、そこを丁寧に作るかどうかで見えてくるものがかなり変わってきます。単なる外形模型やボリューム模型とは、得られる感覚の深さがまったく違ってくる、という実感があります。
まず木の梁をちゃんと模型で表現することの良さは、空間の「骨格」を本当に理解できるところにあると思っています。リノベーションって、新築みたいに全部を自由に決められるわけじゃなくて、既存の梁や柱がすでに空間の性格をある程度決めてしまっていますよね。図面や断面図で高さや位置は分かっていても、それが空間の中でどう感じられるのかは、実はなかなか想像しきれないことが多い。そこで梁を模型で一本一本表現してみると、「この梁があることで天井が低く感じるのか、それともリズムとして心地よく見えるのか」が、かなり直感的に分かってきます。
特に、既存の梁を見せる計画の場合は、その見え方が空間の印象を大きく左右しますよね。図面の上では単なる一本の線でも、模型で立体として見たときに、「意外と存在感が強いな」と感じることもあれば、「このくらいなら全然軽やかに見えるな」と安心できることもあります。つまり、梁を模型でつくるという行為自体が、「この空間の主役はどこなのか」を探っていく作業にもなっている気がします。
それともう一つ大きいのが、梁をつくり込むことで、光や影の出方がかなりリアルに感じられるようになる点です。梁があると、光は均一には回らず、必ず陰影が生まれます。その陰影が気持ちいいのか、それとも重たい印象になるのかは、実は寸法だけでは判断しきれないところがあります。模型に梁があると、自然光でも照明でも、ちょっと角度を変えて見るだけで、影の落ち方が見えてきます。「ここ、午後になるといい影が出そうだな」とか、「この部分は少し暗くなりそうだから、開口を足した方がいいかもしれないな」とか、そういう感覚的な判断が、かなり確かなものになっていきます。
さらに、家具までつくり込んだ模型の良さは、空間の「スケール感」が一気に現実に近づくところにあると思います。家具が入っていない模型って、どうしても少し抽象的というか、きれいな箱の集合として見えてしまうことがあります。でもキッチンや棚、テーブルのような家具が入ると、その瞬間に「人がどう使うか」というイメージが立ち上がってきます。たとえばキッチンカウンターの高さや奥行き、収納の位置が模型にあるだけで、「ここに立ったときの視線はどうなるか」とか、「この動線、窮屈じゃないか」といったことが、自然と頭に浮かんでくるようになります。
リノベーションの場合は特に、家具と建築の境界があいまいになることが多いですよね。既存の梁に合わせて棚をつくったり、壁の厚みを利用して収納を埋め込んだり、造作家具が空間の質を大きく左右する場面がかなり多い。だから家具を模型に入れておくと、「この家具があることで空間がどう締まるのか」「逆に少し窮屈にならないか」といった微妙なバランスを、早い段階で感じ取ることができます。図面上では成立していても、模型で家具を置いてみた瞬間に、「あ、これは思ったより圧迫感があるな」と気づくことは、実務ではけっこうよくあります。
それから、木の梁と家具の両方をつくり込んだ模型には、「空間の性格そのものが見えてくる」という良さもあると思っています。梁が見える空間なのか、家具が主役になる空間なのか、それともその両方が穏やかに共存する空間なのか。そういう空間の方向性が、模型の中に少しずつ表れてきます。これは設計者自身にとっても大事なことで、「自分が何を大切にしたい空間なのか」を確認する作業にもなっている気がします。
さらに実務的な面で言うと、梁や家具がしっかり入った模型は、施主さんとのコミュニケーションでもすごく効いてきます。施主さんにとっては、梁が見えるとか、キッチンがここにあるとか、収納がこのくらいあるとか、そういう具体的な要素が見えた瞬間に、「ここで暮らす自分」を想像しやすくなるんですよね。ただの箱の模型だと、「きれいだね」で終わってしまうこともありますが、家具が入っていると、「ここに食器が入るのか」「この棚、使いやすそうだな」といった生活に直結した感想が自然に出てきます。そのやり取りの中で、設計の精度もどんどん上がっていく感じがあります。
個人的な感覚としては、木の梁と家具をつくり込んだ模型は、単なる確認用の道具というより、「空間のリアリティを一歩手前まで引き寄せる装置」みたいなものだと思っています。まだ実際には存在していない空間なのに、そこに少しだけ手触りや重さが生まれてくる。その感覚があると、「この計画は本当に成立しているのか」「ここは本当に気持ちいい場所になるのか」という問いに対して、かなり自信を持って答えられるようになります。
リノベーション設計って、既存の条件の中で最適な答えを探していく作業でもありますが、梁や家具まで丁寧につくった模型は、その答えを探すための「感覚の精度」を高めてくれる存在なんだと思います。図面だけでは少しぼやけていたものが、模型の中で輪郭を持ち始めて、「ああ、この空間はこういう性格なんだな」と、だんだん確信に変わっていく。その過程そのものが、梁や家具をつくり込む意味なのかもしれません。



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