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引戸をオープンにすると、一室空間になるマンションリノベーション

  • 執筆者の写真: t-ogino
    t-ogino
  • 13 時間前
  • 読了時間: 9分
小上がりのあるリビング


小上がりとリビングの間の引戸を引込全開することで、家全体が一室の開放的なマンションに。


3連引戸を閉めたリビング


小上がりは寝室として使っているので、3連の引戸を閉め切って、リビングと寝室をしっかりわけます。3連の引戸は、オーク材でつくった、自然素材の引戸です。



3連引戸が変える空間


家の中心にある小上がりとリビング。その間に設けられた3連の引き戸は、空間の性格を自在に変える、まさに「暮らしのスイッチ」のような存在です。引き戸を引き込んで全開にすると、リビングからダイニング、キッチン、そして小上がりまでがひとつながりになり、まるで一室のような開放感が生まれます。マンションという限られた面積の中で、空間を広く、のびやかに使うための工夫が、随所にちりばめられています。


この住まいにおいて、引き戸の存在は単なる間仕切り以上の意味を持っています。小上がりは、日中は子どもたちの遊び場やくつろぎのスペースとして、夜は寝室として使われる多機能な空間です。だからこそ、引き戸を閉め切ることで、リビングと寝室をしっかりと分けることができます。家族の生活リズムに合わせて、空間の使い方を柔軟に変えられるようになっています。


この3連の引き戸は、オーク材で丁寧につくられています。オークは硬質で耐久性がありながら、木目が美しく、空間に自然な温もりをもたらしてくれる素材です。引き戸の表面には、木の節や導管がそのまま生かされており、人工的な加工では得られない、自然素材ならではの豊かな表情があります。光が差し込むと、木目がやわらかく浮かび上がり、時間帯によって異なる表情を見せてくれるのも魅力のひとつです。


写真を見ると、リビング・ダイニング・キッチンがひとつながりの空間として構成されていることがよくわかります。床材にはオークの無垢材が使われており、家具や建具も同じトーンで統一されているため、空間全体に一体感があります。ダイニングテーブルの周りには、黄色の子ども用チェアや白いハイチェアが並び、家族の暮らしがにじみ出ています。キッチンは壁付けのタイプで、作業スペースが広く取られており、収納も充実しています。生活感がありながらも、整然とした印象を保っているのは、素材の選び方と空間の構成が丁寧に考えられているからだと思われます。


小上がりの奥には、畳敷きのスペースがあります。ここは、家族が集まってお茶を飲んだり、子どもが昼寝をしたりする場所として使われているようです。畳の香りと木の香りが混ざり合うこの空間は、現代的なマンションの中にあって、どこか懐かしさを感じさせてくれます。引き戸を閉めれば、ここが寝室になります。布団を敷いて、静かな時間を過ごすことができます。引き戸の遮音性もあり、リビングでテレビを見ていても、寝室側には音があまり届かないそうです。


オーク材でつくった引戸


このように、引き戸の開閉によって空間の性格が変わることで、家族の暮らし方にも柔軟性が生まれています。朝は引き戸を開けて、光と風を家全体に巡らせます。昼は子どもが小上がりで遊び、親はキッチンで料理をしながらその様子を見守ります。夜は引き戸を閉めて、寝室としての静けさを確保します。こうした一日の流れの中で、引き戸は常に「暮らしの調整役」として機能しています。


また、引き戸のデザインにもこだわりがあります。取っ手やレールは極力目立たないように設計されており、閉じたときには壁のように見えます。開けたときには、建具が壁の中にすっきりと収まり、視線の抜けが生まれます。こうしたディテールの積み重ねが、空間の質を高めます。オーク材の質感を生かすために、塗装は控えめに、自然な風合いを残す仕上げが施されています。触れたときの手触りも心地よく、使うたびに木のぬくもりを感じることができます。


この住まいの設計には、「素材と空間の関係性」を大切にする思想があります。自然素材を使うことで、空間に時間の流れが刻まれていきます。木は使い込むほどに色味が深まり、傷や汚れも味わいとなります。畳は季節によって香りが変わり、足触りも変化します。こうした変化を受け入れながら暮らすことが、家族の記憶を空間に刻んでいくことにつながります。


さらに、引き戸の存在は「家族の距離感」を調整する役割も果たしています。開け放てば、家族全員がひとつの空間で過ごすことができます。閉じれば、それぞれが自分の時間を持つことができます。子どもが成長するにつれて、こうした空間の使い分けはますます重要になってくるでしょう。プライバシーを守りながらも、つながりを感じられる設計。それが、この住まいの魅力のひとつです。


住まいの空間構成は、単なる間取りの工夫ではなく、「暮らしの哲学」を体現しています。限られた面積の中で、いかに豊かに暮らすか。素材の力を借りて、空間に深みを与える。家族の変化に寄り添いながら、柔軟に形を変える。そうした思想が、3連の引き戸という建具に凝縮されています。

この住まいに暮らすご家族は、毎日の暮らしの中で、引き戸を開けたり閉めたりしながら、自分たちの生活を調整しています。その動作ひとつひとつが、空間との対話であり、家族との対話でもあります。オーク材の引き戸は、ただの建具ではなく、暮らしのリズムを支える「道具」として、家族の時間を包み込んでいます。


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3連引戸の設計ポイント


3連引戸設計の基本的な理解

3連引戸とは、3枚の戸が横方向にスライドすることで開閉する建具であり、開口部を広く確保できる点が大きな魅力です。居室とバルコニーの連続性を高めたり、リビングとダイニングを柔らかく仕切ったりと、空間の可変性を高める設計に適しています。


構造的・機能的な注意点

1. レールの選定と設置精度

• 上吊り式 vs 下レール式:上吊り式は床に段差がなくバリアフリー性が高いですが、重量負荷が上部に集中するため、梁や鴨居の強度が重要です。下レール式は安定性が高く、重厚な戸にも対応できますが、掃除や段差処理に注意が必要です。


• レールの直線性と水平性:3枚の戸がスムーズに重なり合うためには、レールの施工精度が極めて重要です。わずかな歪みでも戸の動きに支障をきたします。


2. 戸の重なりと収納スペース

• 戸袋の確保:3枚の戸が全開時にどこに収納されるかを事前に設計する必要があります。壁内に戸袋を設ける場合は、断熱・防音・配線との干渉に注意。


• 重なり幅の調整:3枚の戸が部分的に重なる場合、戸の厚みや取っ手の形状が干渉しないように設計する必要があります。


3. 戸の素材と重量

• 軽量化 vs 高級感:軽量なアルミや樹脂製は操作性が良く、メンテナンス性も高いですが、木製やガラス入りの戸は空間に重厚感や透明感を与えます。重量が増す場合は、戸車やレールの耐荷重を十分に検討する必要があります。


美観と空間演出の観点

1. 開閉による空間の変化

• 全開時の一体感:3連引戸を全開にすることで、空間が一体化し、視線の抜けが生まれます。特にバルコニーや庭との連続性を意識する場合、床材や天井ラインの統一が効果的です。


• 部分開閉によるゾーニング:中央の戸だけを開ける、片側だけを開けるなど、開閉のバリエーションによって空間の使い方が変化します。生活動線やペットの動きも考慮して設計すると、より柔軟な空間になります。


2. デザインの統一性

• 枠材と壁材の調和:引戸の枠材が壁や床と調和することで、建具が空間に溶け込みます。逆に、あえて異素材を用いることでアクセントにもなります。


• ガラスの使い方:すりガラスや格子入りガラスを用いることで、視線を遮りながらも光を通すことができます。ペットの安全性やプライバシーにも配慮できます。


安全性と耐久性への配慮

1. 指挟み防止と戸のストッパー

• ソフトクローズ機構:戸が勢いよく閉まるのを防ぎ、指挟みのリスクを軽減します。特に小さなお子様やペットがいる家庭では必須の機能です。


• 戸の跳ね返り防止:開閉時に戸が跳ね返ると、周囲の家具や人にぶつかる危険があります。戸車の制動性やストッパーの設置が重要です。


2. 地震時の安全性

• 脱落防止機構:地震時に戸がレールから外れて落下することを防ぐため、戸車の構造やレールの形状に工夫が必要です。


• ガラスの飛散防止:ガラス入りの引戸を採用する場合は、飛散防止フィルムの施工や強化ガラスの使用が推奨されます。


メンテナンス性と長期使用への備え

1. 戸車とレールの交換性

• 消耗部品の交換容易性:戸車やレールは長期使用で摩耗します。交換が容易な構造にしておくことで、メンテナンスコストを抑えられます。


2. 掃除のしやすさ

• レールの形状:下レール式の場合、ゴミやホコリが溜まりやすいため、掃除しやすい形状や素材を選ぶことが重要です。


ペットとの共生を考慮した設計

ペットとの共生空間における引戸の役割は非常に重要です。


•ペットの通行性:引戸の下部にペットドアを設けることで、戸を閉めた状態でも自由な移動が可能になります。


• 静音性:戸の開閉音が大きいと、ペットが驚いてしまうことがあります。静音戸車やフェルトパッキンの使用で音を抑える工夫が有効です。


• 視線の確保:すりガラスや透明パネルを用いることで、ペットが飼い主の姿を確認できる安心感を与えられます。


情緒的価値と空間の記憶

3連引戸は単なる建具ではなく、空間の「記憶」をつなぐ装置でもあります。開け放たれたときの風の通り道、閉じたときの静けさ、家族の気配が戸越しに感じられる瞬間——それらはすべて、設計者の意図と住まい手の感性が交差する場面です。


• 記憶を刻む素材選び:祖父のスピーカーのように、思い出のある素材や意匠を引戸に取り入れることで、空間に物語性が生まれます。


• 開閉のリズムと暮らしのテンポ:朝に開け、夜に閉じる。その繰り返しが、暮らしのリズムを形づくります。引戸の操作感や音も、日々の情緒に影響を与える要素です。



3連引戸の設計は、単なる建具の選定にとどまらず、空間の可変性・安全性・美観・情緒性を総合的に捉える必要があります。特に貴光さんのように、家族やペットとの関係性、記憶の継承、素材の温もりを大切にされる設計者にとっては、引戸は「動く壁」であり、「開閉する物語」でもあります。








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